21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

佐野眞一『あぶく銭師たちよ! 昭和虚人伝』

その細木ブームの仕掛人の一人、祥伝社ノンブック編集長は、細木を占いの世界の松下幸之助にたとえてみせた。彼女は底辺の人々の喜怒哀楽をよく知っている、言うことが、いちいち本音で、大学教授の経済学の講義には耳を傾けない大衆が、松下幸之助の言うことなら喜んで聞くのと同じだ、というのである。(大殺界び怪女・細木数子の乱調)

 なんかここのところ、書けないでいたわけですが、年始に日本に帰って、案外「読んでるのに」とか、「もっとがんばればいいのに」とか言われたので、ぼちぼち書いてみます。
 さて、年始にかけてノンフィクションにはまっていたわけですが、人の生き方を書いたノンフィクションを中毒的に読んでしまう、というのは生き方に迷っているのかも知れません。よかったのは落合博満『采配』、有馬哲夫『原発・正力・CIA』、産經新聞取材部『ブランドはなぜ墜ちたのか』というところですが、つねに選手目線の落合監督の本にははげまされたものの、この人はやっぱり勝負師だし、普通のビジネスの世界で一時代を築く人って、やはりどこかおかしいのかなあ、とネガティヴ志向に陥りかけている今日この頃です。

 そんななかでも、最たるものがこの『あぶく銭師たちよ!』。バブルで一時代を築いた、フジテレビ鹿内親子、代ゼミ高宮行男、さらには早坂太吉のような人々について書かれた本。リクルートの江副さんとかえらい書かれようだが、私自身もふくめて、一般企業に就職した人は一度はリクルート社のお世話になっているわけだし、また、リクルートという会社で多くの人の生活を支える基盤をつくったのも彼だと思えば、日々、マイナス思考は深まる。
 とくに細木数子の章は圧巻。東京駅の高架下でひらいたスタンドコーヒーショップから、銀座のママにのぼりつめ、詐欺にあって数億もの借金を背負うも、これを完済、さらには安岡正篤に婚姻届を書かせるまでにいたる女占い師の一代記だが、このバイタリティにうなるのみならず、いまだに彼女の言葉を人生の支えにしている人がいるのだ、という、あたかも『小田霧響子の嘘』を地でいくような事実を思い起こせば、もはやどちらかというと彼女を尊敬せざるを得ない。
 ところでこの本を読んで感じたのは、いかに経済状況が停滞気味でも、私がいま住むロシアの人々のメンタリティは、やはりバブル期の日本人に近いのかな、ということだ。止まっている人を押しのける、というのも、それはひとつのパワーなのかなあ、と。

(『あぶく銭師たちよ! 昭和虚人伝』 ちくま文庫