21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

ミステリをたくさん読む(20年1月)

 今年こそはロシア文学を読み直す年にしよう、と思って『戦争と平和』を読みはじめた。第二巻、フリーメーソンに入ったピエールが農奴解放を思い立ち、ウクライナの自領における待遇改善を支配人に求める。しばらくして視察に行ったピエールは、学校や井戸が作られて喜んでいる領民の姿を目にするのだが、実際に改善されたのは表面だけで、支配人は莫大な使途不明金を着服していた・・・と、いうくだりを読んで、自分の人間観って、この小説を初めて読んだ高校生の頃にはもう形成されていたのかな、と思った一月。ミステリは冬休みもあり7冊。

 

アガサ・クリスティー『鏡は横にひび割れて』(橋本福夫訳、ハヤカワ文庫)★★★★★

ローレンス・ブロック『おかしなことを聞くね』(田口俊樹他訳、ハヤカワ文庫)★★★★★

アガサ・クリスティー『ゼロ時間へ』(三川基好訳、ハヤカワ文庫)★★★★★

我孫子武丸『殺戮にいたる病』(講談社文庫)★★★★

若竹七海『プレゼント』(中公文庫)★★★★

綾辻行人十角館の殺人』(講談社文庫)★★★☆

島田荘司占星術殺人事件』(講談社文庫)★★★☆

 

『鏡は横にひび割れて』は小説としてのバランスというか、素晴らしい映画を見たような感覚。世代間の違和感に惑うミス・マープルが「グラン・トリノ」のイーストウッドのようでもあり、メロドラマではあるのだけれど切ないストーリーラインが素晴らしい大傑作。『ゼロ時間へ』は犯行時間に向けて物語が動いていく、という斬新な取り組み・・・が、うまく行っているかは別として、登場人物の中でサイコパスは誰か当てる、という意味で、とても現代的な楽しみ方ができる作品だった。

『おかしなことを聞くね』は遠い昔、死んだ母が絶賛していたような気がする一作。電子で買えるようになり、読んでみたが、これは素晴らしい。物語の中盤くらいから、狂気の世界に足を踏み入れたことがわかるのだが、そこから抜けられない恐怖が斬新な短篇集。

 劇的などんでん返しがある『殺戮にいたる病』が4点は評価辛いかな、と思いつつも、読んでいる間はそれほど楽しくないので。シシドカフカさんのドラマがついに始まった葉村シリーズ第一作『プレゼント』は、悪意の塊の中で、自分の正義を貫く探偵像がすでに確立されていて素晴らしいのですが、ローレンス・ブロックと比べてしまうとクレイジーさで負ける。

 日本本格ミステリを代表する二作、『十角館の殺人』『占星術殺人事件』は、それぞれ発想の素晴らしさには感動するのですが、やっぱり小説としてもっと面白くしようがあるだろう、と。特に『占星術』は凄すぎるトリックと、金田一の方が面白いようなまずい話作りがあまりにアンバランスでした。こんなネタあれば自分ならもっと面白く書く、という気にさせられてしまうので、そりゃ真似したくなるよね、と。

 

(星5)『不夜城長いお別れ』『さらば愛しき女よ』『錆びた滑車』『OUT』『マルタの鷹』『高い窓』『満願』『鏡は横にひび割れて』『屍人荘の殺人』『おかしなことを聞くね』『静かな炎天』『ゼロ時間へ』『杉の柩』『百舌の叫ぶ夜』『カーテン』『春にして君を離れ』『涙香迷宮』『私が殺した少女』(星4.5)『リトル・シスター』『五匹の子豚』『ブラック・ダリア』『さらば長き眠り』『さよならの手口』『ブラウン神父の童心』『悪いうさぎ』『斜め屋敷の犯罪』『りら荘事件』『ノックス・マシン』『オーダーメイド殺人クラブ』『さむけ』(星4)『僧正殺人事件』『獄門島』『戦場のコックたち』『ミレニアム1』『依頼人は死んだ』『神様ゲーム』『スタイルズ荘の怪事件』『なめくじに聞いてみろ』『殺戮にいたる病』新宿鮫Ⅹ 絆回廊』『白い雌ライオン』『赤い収穫』『ビッグ・ノーウェア』『刑事マルティン・ペック 笑う警官』『プレゼント』『アリス殺し』『天使のナイフ』『折れた竜骨』『バッド・カンパニー』『マネーロンダリング』『鍵のない夢を見る』『果てしなき渇き』『ボーン・コレクター』『生ける屍の死』『ドS刑事 風が吹けば桶屋が儲かる殺人事件』『檻』『古書店アゼリアの死体』『ビブリア古書店の事件手帖 栞子さんと奇妙な客人たち』(星3.5)十角館の殺人『不穏な眠り』『緑衣の女』占星術殺人事件『ローズガーデン』『Aではない君と』『愚か者死すべし』『11/22/63』『笑う男』『プレイバック』『教場2』『その可能性はすでに考えた』『クビキリサイクル』『LAコンフィデンシャル』『首無しの如き祟るもの』『生首に聞いてみろ』『メーラーデーモンの戦慄』(星3)『秋季限定栗きんとん事件』『四日間の奇蹟』『人間の顔は食べづらい』『八月の降霊会』『暗幕のゲルニカ』(星2.5)『ミレニアム2』『真実の10メートル手前』『ヴィラ・マグノリアの殺人』(星1)『一千兆円の身代金』