21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

経済小説マストリード100を作る(20年第一四半期報告)

 私にはいささか偏った持論があって、経済と世界史ものの作品に関しては、小説より漫画の方がジャンルの深掘りに成功していると思うのだ。もちろん、日本において。

 世界史、とくに西洋史については結構すでに言われている。塩野七生を別格に、佐藤賢一とか深緑野分とかごく一部の作家しか扱わないし、扱うと直木賞が取れないらしい。一方で、漫画においては手塚にも『アドルフに告ぐ』や『ルードヴィヒB』があるし、最近でも『ヴィンランド・サーガ』『ヒストリエ』『狼の口』をはじめとして名作が多い。バリエーションも豊かだ。ただ、これは最近の話かも知れず、辻邦生とか堀田善衛とかをざっとでも読んでからでないと、本当のところは言えない。

 一方、経済ものについてであるが、漫画が『ナニワ金融道』『闇金ウシジマくん』や『クロサギ』を有しているのに対して、小説はベストセラーをたくさん輩出しているわりには、金融か商社ものに偏りがちで、ヒーロー像にも幅がないような思いがある。ハゲタカや半沢直樹とかがもてはやされるところを見ても、そんな気がする(面白いけど)。

 ただ、これについても読まないで何かいうのは避けるべきだ。そんなわけで、意識して経済小説をたくさん読むことにした。基準ができたら星をつけて、これもマストリード100にしたい。経済小説なので四半期報告でいいように思う。

 

高杉良金融腐蝕列島』(1997年、角川文庫)

池井戸潤『オレたちバブル入行組』(2004年、講談社文庫)

池井戸潤『オレたち花のバブル組』(2008年、講談社文庫)

真山仁『レッドゾーン』(2009年、講談社文庫)

 

 ミステリについては、星をつけて評価したが、まだ自分の中で基準ができるに至っていないので、とりあえず控えておく。また、時代性が重要と思うので、単行本の発行年は記しておこう。時系列として12年に渡る作品が並んだが、バブル崩壊からリーマンショックまで、という印象だ。とくに金融ものはやはりバブルと不良債権の話をしないでは成立しないのだろう。気づくのは、主人公像の変遷である。

 『金融腐蝕列島』の竹中は、後半ものを言うようになるものの、基本的には巻きこまれ型の主人公である。しかも、ものを言えるようになったのが右翼の大物に見込まれてから、というのが実にリアルでいい。一方で、(いつドラマが放送されるのかと)噂の半沢直樹は、上層部にも結構はっきりものを言う。はっきりものを言いすぎて、タイトルにあるような群像劇ではなくこの人個人のヒーローストーリーになってしまうくらいだ。ただし、半沢の良さはどこか小物感があるところだが、『ハゲタカ』の鷲津になるともっと完璧なスーパーマンになる。

 平成の歴史も勉強しながら、もう少し幅広く見ていきたいと思う。