21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

横山秀夫『震度0』

 さて、ここのところ3冊ばかり、横山秀夫のミステリーを読んだのだが、彼の作風は(筒井康隆+都築道夫)÷2なのではないか、と思うに至った。おそらく都築道夫は『ルパンの消息』の設定から、そして筒井康隆はこの『震度0』の書きぶりから、そんな無責任な思いに至ったのであろう。推理小説は謎解きが命、とする向きからすれば、わりとオチはあっけなくてつまらないかも知れない。しかし、目まぐるしく場面が移りかわる構成、説明ゼリフ満載のかなり饒舌な文体、そして潜んだ、というか実はぜんぜん潜んでいなくてこれでもかと表に出てくる毒。おもしろい。勢いにつられて、とくに共感できる相手でもないのに、共感したような気持ちになるのだ。ある意味これが、エンターテイメントの醍醐味かも知れない。(なにしろ本当には共感していないのだから、読んでいる時間こそ没入するものの、読んだあとはすべて忘れられるのだ。)
 なかでも『震度0』はあざといほどに面白い。県警組織、というものを主人公に、肩書きがそれぞれ主人公として走りだす。それぞれの肩書きを演じている登場人物など、所詮は舞台でその役を演じている役者に過ぎない。(と言っては役者に失礼か。しかし肩書きがハムレット、登場人物は真田広之くらいの勢いである)。
 一応、筋書きに触れておくと、嫌な仕事はすべてやらされていた課長が失踪し、それぞれ後ろ暗いところのある部長たちが焦る、という物語。被害者意識の強い、私のようなサラリーマンにはおすすめである。

(『震度0』 朝日文庫