21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

A.ベンダー『わがままなやつら』 第十話「アイロン頭」

彼は相手のまばたきの頻度によって、どんな種類の涙が流れているのかを聞き分けることができ、どんなふうになぐさめてあげればいいのかを心得ていたのだ。(「聖歌」)

アイロン頭はカボチャ頭の両親には愛されていたが、学校では友達ができず、仲間のアイロンが頭だけ独立して家電販売店で売られていたりすると、悲しみに混乱してしまうやさしい子供だった。しかし、彼はおさなくして死んでしまう。この淡々とした小説は、カボチャ頭の母の愛が徹底的にうつくしく描かれていて、かなしい物語なのに希望に満ちている。

服を脱いでしまうと、夫は頭を彼女のおなかに乗せ彼女はすごく幅広の彼の頭骨を両手でつつみオレンジ色をした一つ一つの分かれ目を撫でていった。
「うちの坊やはさびしいと思う」と彼女はいった。
(126ページ)

 エイミー・ベンダーの短篇は、ゆるやかな狂気に満ちているが、その一方で一言ふっと真実をつく。真実には絶望も混ざっているが、そこには希望が感じられるのである。