21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

柳下毅一郎『殺人マニア宣言』 第一章

アメリカ人なら誰でも「リジー・ボーデン斧とって」の歌は知っている。だが、実際にリジーが何をしたかと問われたらたいていは口ごもるだろう(いわんや日本人をや)。ましてや彼女の出身地となると。だが、町の方は覚えている。(21ページ)

本田透の著作を続けて読んだので、その師匠筋(?)にあたる柳下毅一郎の著作を手にとってみた。(と言ってもアマゾンで購入したのだが)。怪我で外出が制限されているから、鬱屈して殺人を計画しはじめたわけではないことだけは、あらかじめエクスキューズしておく。
 さて、私が中学生のころ、ちょうど『羊たちの沈黙』が流行って、洋風の「サイコ・キラー」というものが、それこそ(不謹慎な言い方だが)一世を風靡した。だが、残酷さにおいてはそれらサイコ・キラーに匹敵しながら、その一方で陰気な生活観のにじむ殺人事件が、日常的に日本で起こるようになって、もはや「無邪気」に、サイコ・キラーにはらはらすることなどできなくなっている。
 この本の第一章では、作者が殺人現場や、犯罪に関する博物館を回る世界紀行を行う。映画「サイコ」のモデルとなったエド・ゲイン、「マザー・グース」の一曲になってしまったリジー・ボーデン。そして「切り裂きジャック」。柳下氏は、殺人者を育んだ(?)「場所」の力に大きく惹きつけられているようである。
だが問題は、場の磁力がなくても、人を殺してしまう現代にあるのかも知れない。

ジー・ボーデン斧とって
ママを四十回ぶちのめす
自分のしたこと気がつくと
今度はパパを四十一

(『殺人マニア宣言』 ちくま文庫