21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

6月8日付 新聞書評メモ

毎日新聞
堀江敏幸
ミハイル・ブルガーコフ巨匠とマルガリータ』(水野忠夫訳 河出書房新社
 ロシア文学を専攻したものとしては、恥ずかしい限りだが、実はこの小説最後まで読み通したことがない。おそらく、出逢う時期が悪かったのだろう。すでに3種もの邦訳があるが、これは私も持っている『集英社ギャラリー 世界の文学』にはいっている水野忠夫訳の改訳。また読み始める季節なのかも知れない。

沼野充義
桐野夏生東京島』(新潮社)
 どうみても『ロビンソン・クルーソー』のパロディ。あらためてロビンソンの普遍性には脱帽なのだが、これだけ極端な状態を書く場合の桐野夏生の筆には不安もある。『OUT』はあまりにも身近な世界を描いたからこそ、極限を表現できたわけで、『残虐記』といい、『柔らかな頬』といい、大上段に構えた場合には空振りに終わることが多い。空振りではないことを期待する。

渡辺保
河合祥一郎『謎ときシェイクスピア』(新潮選書)
 新潮選書で「謎とき」といえば、名著『謎とき『罪と罰』』(江川卓)を思い出す。本書は「シェイクスピア別人説」を解き明かす形で、シェイクスピアの時代のイギリスを描き出しているらしい。期待大である。

日本経済新聞
池田浩士
ギュンター・グラス『玉ねぎの皮をむきながら』(依岡隆児訳 集英社
 「玉ねぎ」といえば、遠藤周作の遺作『深い河』を思い出すが、これはナチのSSに所属していたことを告白したグラスの半生記。書評はグラスの戦争協力を「止むを得ない状況によるもの」として語るぶんには公平だが、本の紹介としては通り一遍であった。しかし、読まねばなるまい。