21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

ねじめ正一『荒地の恋』 第十三章

そう、俺は君を生きなかった。だから罰は惨い方がいい。君を生きなおすことはもうできないのだから。俺は君を捨てたのだから。(「すてきな人生」)

荒地の恋』は非常によくできた小説であるが、それはやはり20世紀という時代へのオマージュ、というよりはノスタルジアのような気がする。台詞回しから地の分まで、これでもかというほど大仰でメロドラマチックだが、あまり下品にならず格調高い文章で明子や治子の狂気を描くため、ときには『死の棘』を彷彿とする。だが問題は、その彷彿とさせるところにあるのだろう。あくまでこの小説は同時代の物語としてではなく、過去の物語を連想させる形で私たちに感銘を与える。逆にいえば、オリジナルではなくコピーとしてこの物語は優れているのだ。
 物語は、70年代のなかばから80年代の終わりにかけての、「荒地」の詩人たちの恋物語であり、物語の終わる時代にちょうど、ねじめ正一は『高円寺純情商店街』を書いていた。それは、ひょっとすると、詩の時代と純情商店街の時代が同時に終わった時期だったのかも知れない。一口に言えば、「昭和」が終わったのである。