21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

G.ガルシア=マルケス『百年の孤独』 (一)

そのような幻覚にみちた覚醒状態のなかで、みんなは自分自身の夢にあわられる幻を見ていただけではない。。ある者は、他人の夢にあらわれる幻まで見ていた。まるで家のなかが客であふれているような感じだった。

 ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』は、ときとして世界最良の小説、と評されることがある。そのことが正当か否か、正確なことは言えないが、エピソードの豊かさにおいて、世界最高レベルに位置する小説であることだけは確かだろう。
 物語の前半では、街中に伝染し、人びとの記憶を蝕んでいく、奇妙な「不眠症」が描かれる。昨今はメロドラマのテーマとして、忘却あるいは記憶喪失が花盛りだが、『百年の孤独』のこのエピソードはその先駆と言えよう。作中ではいなくなる、忘れされらるということが、死に似た、あるいは死よりもさらにおそろしいこととして描かれている。(実際に作中には死を超越してしまった人物が何人か現れる)。不眠によって人びとは、人生(においてできること)が倍になったような感覚を抱くものの、その中で事物は固有の意味を失い、あまり生きていてもしょうがないような状態になってしまう。この病は、死の世界から舞い戻ってきたメルキアデスによって、わずか6ページほどで解決してしまうのだが。

(『百年の孤独鼓直訳 新潮社)