21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

劇団ひとり 『陰日向に咲く』

 「読んでから観るか、観てから読むか」という、実際のところなにが言いたいのかよく分からないカドカワのコピーがあったが、本書は映画「陰日向に咲く」(平川雄一朗監督)を観て、そのあまりの完成度の高さに感動して購入した。原作本は映画に比べ、格段に原価率が低いことを考えれば、私のように「観てから読む」お客さんは、売り手側にとって非常にありがたく、この意味で、上記のコピーも意味があることになる。
 本書と、石田衣良池袋ウエストゲートパーク』は、映像化されることによって付加価値が格段に高まった小説の代表だろう(映画のHPによると、「陰日向に咲く」の監督は、「IWGP」のドラマにも参加していたらしい)。小説というメディアが、映像化作品に凌駕されることは、私のような小説フリークにとって些か悲しいことではあるが、それでも二作の映画とドラマの面白さは否定しようがない。せめてもの救いは、魅力的なキャラクターと、根本となるアイデアが、ひとりの人間の想像力から生まれるにあたって、小説という形態を選んだことだけか。
 小説『陰日向に咲く』は、たしかに面白い小説だが、読んでいて「もうすこし」と思うことが沢山ある(きっと映画を先に観たせいだが)。オレオレ詐欺の話の最後に、過剰な説明がセリフとしてくっついて、読者の衝撃(「感動」と書きたくないから衝撃と書いた)をだいなしにするところなど、その際たるものだろう。映画では、そこがすこし控えめに切られている。だから、衝撃的である。
 メディアミックスという行為が、たんなる商業的なものにとどまらず、才能を集めることによって、作品の完成に向かうための推敲のくりかえしであるならば、その事実こそ感動的である。すくなくともこの作品は、そのことによって、物語はつくり物であるからこそ面白い、という事実を思い出させてくれた。
 出版社は……幻冬舎。あっ、カドカワ

(『陰日向に咲く幻冬舎