21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

F.カフカ 『審判』第九章

 それに反して、カフカ『審判』の第九章、「掟の門」のエピソードは深刻な顔をして読むべきなのかもしれない。この入れ子構造の物語、教誨師、門番に導かれて、Kは「犬のようだ!」と言って死んでいくわけだし、その後にはそれこそ「恥辱だけが生き残ってゆくようだった」からだ。さて、また無意味かつ無骨な妄想を、この聖堂の周りにめぐらせるならば、彼が入ることを許されず、また彼のみしか入ってはいけない「掟」とは、ドストエフスキーの地下室人言うところの「自然の法則」、換言するなら彼自身の肉体なのかも知れない。ともかく、『審判』の第九章はめぐりめぐる。円広志の歌のように、何十回もまわっては、どこだかよく分からない処へたどりつく。

ついに彼の視力はおとろえてきた。自分の周囲がほんとうに暗くなってゆくのか、それともただ目のせいでそう見えるだけなのかわからなくなった。しかし彼は今その暗やみのなかに、掟の扉から消しがたい一筋の輝きがさしてくるのを認めた。(318ページ)