F.カフカ 『審判』 第二章
本来ならば今日は、「門前にて」と題された、クッツェー『エリザベス・コステロ』の第六章について語るべきだろう。しかし、この章を読めばどうしてもカフカ『審判』が読みたくなるのが人情。コステロの運命について語るのは、『審判』を読み終えてからでも遅くはあるまい。
フランツ・カフカ『審判』の主人公、ヨーゼフ・Kはエリート銀行員(? すくなくとも中くらいには)である。空気はそんなに読めないが(カフカの作品中に読むべき空気があるとして)、けっこう自分に自信もある。『審判』はそんな彼がわけもなく逮捕され、よく分からないままよく分からない連中にひっぱりまわされる物語である。
さて、カフカのこの小説は、まるで木造のコンピューターグラフィックスのようである。とくに第二章、法廷のあるユーリウス街の建物に代表されるように、まずは見取り図が描かれ、ところどころが作者によってクリックされると、ぼんやりしていた部分が拡大されて、細部が顔を出す。ふだん細部は決して目に見えないのだが、その立体はいかようにも展開可能であり、視点が向けられた場所だけは異様に拡大される。だが建物はけっしてハイテクではない。どう考えてもばらばらに出来ないような精巧な木製のからくり細工でありながら、いつのまにか裏返ったり、いつのまにか真ん中からふたつに割れていたりする。法廷でK自身によって語られる、第一章の逮捕物語じたいが、「あれ、そうだったっけ?」というような所ばかり拡大される。
「だって下宿を純潔にしておきたいと望むのも、結局のところ下宿しているかたがたみんなのためでなくちゃなりませんもの」(第一章)
(『審判』辻瑆訳 岩波文庫)