21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

四十男、同世代作家を読む(1)塩田武士

 時の経つのは早いもので、このブログの最初の頃には二十代だった私も、今月、四十歳の誕生日を迎えます。しかし、ただ漫然と四十歳の一年間も過ごすのもなんなので、今年は意識して同世代作家の本を読んで行くことにしました。同じ世代の人とはおそらく、文化や社会的事件の受容において共通するものがあり、そう言う人たちが作家としていかなる世界を形成したか、見てみたいからです。
 しかし、ウィキペディアを駆使して調べても、私と同じ1978年生まれの作家はなかなか見つかりませんでした。人気作家では、米澤穂信さんくらいでしょうか。ちなみに同学年には歌姫が多く、椎名林檎浜崎あゆみも同い年ですが、作家はなかなかいないようなので、プラスマイナス三歳までは同世代と看做すことにして、このシリーズをはじめます。

 そう言うわけで第一回は塩田武士さんを選びました。1979年生まれで、一歳年下ですが、大阪生まれという点も共通しており、作品を読んでいても「子供の頃同じテレビ見てたんちゃうんかな」という親しみを持てます。代表作の『罪の声』はグリコ・森永事件を題材にした作品で、私は「これはまず読まなアカンやろ」と思ったのですが、この作品が文学賞、ランキング関係(吉川英治文学新人賞とか、『このミス』とか)でわりと不遇だったのは、ひょっとして当時、関西人かつ子供であった私や作者が思っているほど、この事件はインパクトなかったからのかな、と思いました。実際、関東生まれで少し年下の妻には、事件そのものがピンと来ないようです。
 さて、下記、緩やかなオススメ度順に、読んだ本の感想を記します。

『ともにがんばりましょう』(講談社文庫)
 21世紀にまさかの組合団体交渉モノですが、私のイチオシはこれです。懐かしい漫才を思わせる、関西弁の会話のユーモアが生きているとともに、ネゴシエーションの中に人物の生き様を浮かび上がらせる書き方が見事と思いました……ていうか私が給与が気になるお年頃なのかも知れません。
『盤上のアルファ』(講談社文庫)
 奨励会で挫折した棋士の再生をめぐる物語ですが、主要登場人物が出てくるたびに二回もぶっこまれる「彼は性格が悪かった」に象徴されるように、一筋縄ではいかないところが笑える名作です……ていうか私が人生の落とし所を探したいお年頃なのかも知れません。
『罪の声』(講談社
 ミステリですが主犯はほぼ名前が出てきた瞬間に明らか、そしてどんでん返しがある部分は若干、後味が悪く、そこらへんの評価が難しくはありますが、この作品は謎解きよりも、「人生の落とし所を探す」というところに重点があると思っています。そう思って読めば、後半かなり身につまされます。
『女神のタクト』(講談社文庫)
 これも天才指揮者の再生をめぐる物語で、逆のだめカンタービレのようなドタバタが面白いです。
『崩壊』(光文社文庫
 本格刑事小説としてかなり良くできているとは思うのですが、若干これシリアスものの練習として書いてない?みたいな気がしないでもないです。
『雪の香り』(文春文庫)
 恋愛小説。これは、、、無理でした。ちょっとむず痒さが過ぎる。

 第二回は性別を変えて、藤野可織さんを取り上げたいと考えています。まだ二冊しか読んでいないが、、、