21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

K.イシグロ『忘れられた巨人』 第二〜五章

 前回の記事を読みなおしてみると、「マル1」とか「マル2」とか書いた部分が全部文字化けしておりました。いや、環境依存文字なのは知ってるけど、日本語のブログだから大丈夫かな、と思ってたのが、そうでもないんですね。

・・・・・・聞いてくれているの、アクセル? それはね、道が巨人の埋葬塚を通るとき。知らない人にはただの丘に見えるでしょうけど、わたしが合図したら、そのときは道を外れてついてきてくださいね。(42ページ)

 かなり入り組んだ書かれ方をしていた第一章とくらべると、第二章から第一部の終わる第五章までは、通常の道行き物語で読みやすい。第二章では、アクセルとベアトリスの二人が雨宿りをする廃屋で、黒いマントをまとった老婆と、彼女と因縁のあるらしい船頭(というより、渡し守)に出逢う。第三章では、一夜の宿を借りたサクソン人の村で、悪鬼にさらわれた少年エドウィンと、かれを助けた戦士ウィスタンと出逢うが、迷信深い村人がエドウィンの身体に悪鬼に噛まれたような傷を見つけたことから、村にいられなくなった少年を別の村に連れて行くまで、老夫妻は少年と戦士を同行することになる。第四章はエドウィンの視点で、母親の幻と会話しながら村人の迫害に耐える姿と、得体の知れない化け物に噛まれて傷ができたときのエピソードが語られる。第五章になると、村を離れた一行は、オークの木のたもとでアーサー王の甥ガウェイン卿と出逢うが、その場でウィスタンはサクソン人を敵視するブレヌス卿配下の兵士と戦い、殺す羽目になる。
 読みやすい、とは書いたものの、時系列が入り組んでいないというだけで、伏線らしきものが大量にはりめぐらされているわりに、フォローはされないので一筋縄ではいかない。とくに、いろんな女の幻影があらわれるのだが、第一章の赤毛の女といい、第三章でベアトリスのこととして描かれる「緑のマントの女」といい、多少の色がつけられているだけで、区別がつかないようになっている。
 ただ、第一章の黒いぼろをまとった女と、第二章の黒マントの老婆はベアトリスによってカテゴリづけされている。船頭に夫婦の愛を問う質問をされたとき、真実の愛を証明できないで夫と離ればなれにされたものが、この黒い女たちになるらしい。この文脈だと、後半に出てくるガウェインの手記の「黒後家ども」というのも似たように響くが、こちらはガウェイン自身の罪を孕んでいるので、すこし違うようだ。
 もうすこし読み直しが進んでから、ネタバレの部分も含めて私の解釈を書こうと思うが、この物語はまず第一層では「罪と忘却」の話であるように読めるのだけれど、その実、罪そのものは小説の題材としてそんなに重要視されていなくて(「虐殺」とか、かなりしれっと書かれているし)、どちらかというと罪を忘れようと「隠蔽」すること自体がテーマなのではないかな、と思う。そういえば『夜想曲集』にもただひたすら隠すだけの話があったし。