21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

吉川英治『新・平家物語(三)』

桐のこずえの紫を見るたびに、麻鳥はいいしれない恐怖に打たれた。人にはその褪せ紫の花の傘が、夏隣の象形にも見えるであろうが、かれには、夏を望んでやってきた病魔の肌みたいに見えるのだった。
 この花を見るころから秋にかけて、地上には、疫疾、疫痢、疫癘などという厄病が貧民街を吹きまくるのである。
(「簪」)

 前述のとおり、あまり集中して本が読めない現状なので、今日はメモ書き的な内容で。
 上に挙げたのは、吉川英治の『新・平家物語』で、崇徳上皇の忠実な家臣として登場していた麻鳥さんが、『あしたのジョー』のドヤ街みたいなところに行って、医者を目指すころの一節である。桐の花をみると疫病を思い出すという。
 これってなんか元ネタがある述懐なのだろうか? 桐の御紋と言えば、皇室が使っていた紋であるし、そもそも歴史小説で桐と出てきて、ネガティヴな文脈であった試しはない気がする。ただ、それらはもちろん、木材としての木であるとか、門にしても青々とした葉のことであったので、花が紫色なのもこれを読んで知ったのだけれど。
 この項、なんら結論はないわけだが、忘れないようにして後で考えよう。

(『新・平家物語(三)』 吉川英治歴史時代文庫49 講談社