21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

今月読んだ捨ておけぬ三冊(1月編)

 気が早いが、気が向いたので、このまま書き続けよう。
 ここ数年、年間通してやってみる趣味を決めており、2011年がSF、12年が映画、13年が将棋、という具合であった。ともかくやりたいこと(主に室内遊び)が多過ぎて、ときおり精神のバランスが崩れ、好きなことをやっているはずなのに、「あれもやりたい、これもやりたい、早くこれをすまさなきゃ」という強迫観念に苛まれる。そんなイタイ子の私にとっては、「主専攻」を決めるのは精神衛生上よいことだ。それはさておき。
 今年の趣味は「スパイ」と決めた。スパイ小説が絶滅危惧種となった冷戦終結時から、もはや20年以上が過ぎ、あまり本なども手に入らないか、と思っていたが、案外、今やって見ると奥の深い趣味である。

ジョン・ル・カレ『スクールボーイ閣下』(ハヤカワ文庫NV)
海野弘『スパイの世界史』(文春文庫)
ウォルフガング・ロッツ『スパイのためのハンドブック』(ハヤカワ文庫NF)

 スパイを勉強しはじめると、世界に興味が出る、というのがこの趣味の副産物である。『スパイの世界史』は、「とりあえずたくさん本を読んでまとめる」というタイプの本であるのだが、20世紀史の流れ、というよりも国家間の力学をまとめた本として、これほど読みやすく、興味がわく本もなかった。著者がスパイに肩入れし過ぎず、できたての情報機関はそれなりにしか働かない、ということを明確にしているのが効果的なのか、世界史における大英帝国の退場、ナチスドイツをはじめとする新興国の台頭、米ソ冷戦といった流れが、強大すぎる「国家の力」によってではなく、人間の欲と知恵とバイタリティで動いていく様が描かれていて、とても刺激的である。
 その『スパイの世界史』にも登場したモサドの花形スパイ、ウォルフガング・ロッツが引退後に書いた『スパイのためのハンドブック』は、上質のユーモアとウィットが大量にちりばめられ、読み物としてまず上質である。スパイとしての適性検査から、リクルート、訓練、引退後の生活までしっかりフォローしてくれるハンドブックで、必読の書。
 さて、「シャンペン・スパイ」と呼ばれたロッツが、経費使いまくりの華麗なスパイであったのに対して、ル・カレの描くスマイリーはちび、小デブの冴えないキャラクターだが、常に窮地から復活するストーリーテリングに乗せられてカッコ良く見える筆力にうなる。ル・カレの作風はスマイリー三部作のなかでも変わっているように感じられるので、一度じっくり書いてみたい。