21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

佐々木俊尚『「当事者」の時代』

 簡単に「読書メーター」で感想を書こうとしたら、文字数が全然足りなかった。困ったものだ。困ったので、ここで書きたいだけ書く。
 書いてあることに納得できなくはないのだが、全体に主語がない本である。戦後の復興を進めるにあたり、大衆としての日本人が「被害者」意識を持ち続けたという目の覚めるような指摘のあと、学生運動の中から「被害者=加害者」の意識が生まれ、その立ち位置の辛さから、被害者に「憑依」する意識が生まれる、ことをパラダイムシフトと呼んでいるのだが、この間、n数はどう考えても激減しており、パラダイムが変わったとするにはすこし雑だ。また、被害者に「憑依」し、ヒロシマ被爆者を戦争の加害者として指弾するような、行き過ぎた意識を持っていたのは学生運動のメンバーで、本田勝一を起点として、ジャーナリズムにもこのような意識が生まれたことは理解できるが、これをジャーナリズムそのもののパラダイムとするのはいかがなものか。
 思想史的な流れを書く本としては、非常に面白かったのだが、そもそも幻想の「市民」、そしてその「市民」に憑依したジャーナリズムの限界を書く本ではなかったのか。で、あれば、「パラダイムシフト」を描くにあたって、その当事者にブレがある、というのは致命的な欠陥と感じる。

光文社新書 2012年)