21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

N.F.ケーン『ザ・ブランド』 第二章「ジョサイア・ウェッジウッド」

ジョサイアは、多くのイギリス人が前の世代より豊かになり、非必需品や贅沢品に金をかけるようになったことに気づいた。そして、この消費のほとんどが、社会的な模倣によるものだということを知っていた。現代の消費者と同じく、一八世紀のイギリス人も自分の願望の対象に金を使う傾向があった。つまり、富裕層のすること、あるいは少なくとも自分よりすぐ上の所得層の行動を真似たのである。(55ページ)

 この本おもしろい。その実、歴史だか評伝だかビジネス本だか分からない、鵺的な存在ではありながら、視野のひろさで色んなものをカバーしている。たとえば100%のビジネス本か、偉人伝であれば、上に引用したようなマーケティング的傾向にとびついて、それを結論に持ってくるであろう。だが、これは、価格戦略、ブランド別PL、労務管理などのウェッジウッドのエピソードの一つに過ぎず、ここのエピソードに過度な期待がこめられていないのですいすいと読める。つまり、いくら現代(というよりもこの本が書かれたのは2001年だから、それに近い時代)の感覚に近くても、それはあくまで18世紀イギリスの、産業革命の一時代の成功体験であることが明記されているのだ。
 おそらく、中間層がすぐ上の所得層にあこがれるなどということのない、現代(というよりも今)のような時代はその後にあったのだろう。結びの部分で、ジョサイア死後のウェッジウッドが19世紀をかろうじて生き延びたことが書かれていることで、それは証明される。そこにダイナミズムがあり、この本をおもしろくする理由があるように思える。

ジョサイアは他社製品と価格の差が開きすぎたり、また高価格でも人気のある製品の販売を拡大したいと考えた場合には、進んで値下げをした。ただし通常は、自社製品の価格を業界の平均価格よりかなり高めに設定していた。一七七二年、その理由を「低価格は生産の質の低下を招き、それがやがては軽視、そして無視と不使用を招き、商売は一巻の終わりとなる」とベントリー宛の手紙に書いている。(58ページ)

(『ザ・ブランド 世紀を越えた起業家たちのブランド戦略』 樫村志保訳 翔泳社