21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

B.ヴィアン『うたかたの日々』

アリーズとイジスは同じような恰好をしていたが、彼女らのドレスは水色だった。その縮れた髪の毛は陽光の中で光っており、肩の上に重い、香りのいい束となって落ちかかっていた。どれを選んでいいか戸惑ってしまうほどみんな美しかったが、コランにはわかっていた。(21)

 さて、『うたかたの日々』は悲恋の物語なのだが、思えばコランとシックの悲嘆はともに貧乏から来るのだ。コランは肺から睡蓮が生える病に取りつかれた恋人のために花を買い、シックはジャン・ソル・パルトルという作家(哲学者?)の本をとりつかれたように買いこむ。ふと、これだけ不思議な装置にみちみちた(アイススケートのエッジで人の首が飛び、曲を演奏したら音楽を反映したカクテルができるピアノがあるような)世界で、かれらの悲劇はどうしてお金と結びついてしまうのだろう、ということが気になった。
 ただお金がないために、ラストシーンで恋人の棺が荷物のように投げられる、その現実だけは打ち消しようがない。

(『うたかたの日々』 伊東守男訳 ハヤカワepi文庫)