21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

村上春樹『回転木馬のデッド・ヒート』 はじめに・回転木馬のデッド・ヒート

自己表現は精神を細分化するだけであり、それはどこにも到達しない。(「回転木馬のデッド・ヒート」)

 ながらく日記を書けずにいたことに、とくに理由など見つからない。書けなくなった当初こそ、仕事が忙しい、という理由らしきものがあったものの、それがある程度の落ち着きを見せても、とくに再開せずにいたのはなぜだろう。おそらく、そこにはポジティヴな理由もネガティヴな理由もあまりない。
 さて、なぜか村上春樹の古めの作品を手にとって、読みはじめたらはまりこんだ。おそらくこれは今の自分が必要としていた小説だ。冗長でクドい文体はいまも昔も変わらないが、ただ同じ体裁で書かれた『東京奇譚集』がただのむだ話だったのに、この本はがっちりと自分を捉える。妻がどうして娘こみで夫を捨てたか、どうして挫折した芸術家が凡庸な絵に描かれた男にシンパシーを感じるか、どうして35でじぶんの老いを実感するか、九割がた知ったこっちゃないけれど、心をひくのはそれが30代の、30代による、30代のための小説だからだろう。

どこにも行かないし、降りることも乗りかえることもできない。