21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

加門七海、福澤徹三、東雅夫編『てのひら怪談』

 ちょっと怪我をしたりしまして、しばらく更新せず失礼しました。
 さて、怪談や都市伝説のたぐいが好きで、そんな私にはぴったりの一冊。とりたててホラーが好きというわけではないのだが、短篇という形式美のなかで、書き手(または語り手)の技術を見るには、「恐怖」というのは美しい素材である。本書はビーケーワン怪談大賞なる、ネット公募で集められた原稿用紙2枚以内のアンソロジー。一億人が表現者となるユビキタス(?)時代の象徴のような本である。
 川端康成に『掌の小説』というのがあるが、短篇小説の「職人」である職業作家がその技術を見せつける時代は終わってしまった。宮本慎也のファインプレー集ではなく、リトルリーグから高校野球、社会人までの日本中から集めたファインプレー集である。技術があやしいだけに、余計に迫力がある。
 冒頭に置かれた「歌舞伎」という一篇が、そんな不安感の中で微妙なバランスを持っていて秀逸である。むかしからある壊れたラジオは、兄が拾ってきた乾電池を入れたときだけ動くらしいが、あのラジオは妙な歌舞伎の音をたてたね、と懐かしそうに弟が語るのに、兄は何も覚えていない。なにも壊れていないか、なにが壊れているのか分からない部分が、よけい恐ろしい。

(『てのひら怪談』 ポプラ文庫)