21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

寺尾紗穂『評伝 川島芳子』 第二章

 ひととき大学院の世界に身をおいた人間としては、修論を本にするということ自体が、あまりに大それたことに見えてしまうのだが、そんなことを考えずに新書として読めば抜群に面白い。本書内でも触れられている上坂冬子男装の麗人川島芳子伝』(文春文庫)は、随分と国際情勢の分析が長かったように記憶するが、本書では面倒くさい話はあまりなく、純粋に資料からの抜書きによる川島芳子ポートレート集を楽しむことができる。
 清朝につらなる王女に生まれながら、大陸浪人の養女となり、男装して諜報活動につらなり、上海事変などという非常に迷惑な事件まで引き起こしてしまった人を語る上では、ポートレート集で充分ではないか、と思われる。嘘か本当かわからないが、ジャンヌ・ダルクに惹かれた芳子が少女時代、ノート一冊「ジャンヌ・ダルク」という言葉で満たしてしまった、というエピソードなど誇大妄想を膨らませる上で非常に面白い。
 現在第四章まで読んで、筆者が実のところ何を書きたかったのかはよく分からないが、エピソードの選び方のセンスは抜群である。

(『評伝 川島芳子 男装のエトランゼ』 文春新書)