ミステリをたくさん読む(2月)
二月は初めてアメリカ合衆国に行った。人生初だった。四十歳まで計、九年間も海外で暮らしていたのに。
訪れたのはサンフランシスコとニューヨーク。折角だから、それぞれを舞台にしたミステリを読もうと思い、本棚からエルロイとマクドナルドを引っ張り出してみたが、同じカリフォルニアでも、エルロイはもちろんLAだし、マクドナルドのは仮名の都市だった。
それでも初めてカリフォルニアの風を受けて、読んだ本5冊。
ジェイムズ・エルロイ『ブラック・ダリア』★★★★☆(文春文庫)
ロス・マクドナルド『さむけ』★★★★(ハヤカワミステリ文庫)
アガサ・クリスティー『スタイルズ荘の怪事件』★★★★(クリスティー文庫)
井上真偽『その可能性はすでに考えた』★★★☆(講談社文庫)
『ブラック・ダリア』にミステリとして4.5は甘過ぎる気もするが、圧倒的なヴィジュアルイメージ喚起力に打ちのめされたので、この位置。導入部のボクシングシーンは映画以上の鮮やかさ。
『さむけ』はちょっと話が入りこみすぎているのだが、まさにその「さむけ」を感じさせる演出が上品だった。エルロイの与える衝撃が、まさにグロ画像をそのまま見せるような演出なのに対して、ちょっとした文章のオーバーラップでぞくっとさせる演出が美しい。
ポアロ初登場の『スタイルズ荘の怪事件』は書かれてから百年経ってるのに、犯人が意外、という一点に感動。
『その可能性はすでに考えた』も中華味でよく作られた良品なのだが、後半ちょっと盛り下がる。『真実の10メートル手前』に関しては、探偵役の上から目線が、作品全体に神の視点をもたらしてしまっているようで、真相の驚きを弱めていると感じた。
年初から通算でベスト5を出すと、
『春にして君を離れ』
『涙香迷宮』
『ブラック・ダリア』
『ブラウン神父の童心』
『さむけ』