21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

神林長平『戦闘妖精雪風<改>』Ⅴ「フェアリィ・冬」

 南極大陸に突然出現した「通路」から現れた異性体「ジャム」。地球を侵攻するかれらに反撃するため、通路の向こうのフェアリィ星に結成された空軍のみの軍隊FAFに所属する、深井零中尉は、愛機「雪風」を駆って、ジャムとの明日のない闘いを続ける。なんだか敵の正体もよくわからないまま、主人公たちの苦悩と闘いだけが描かれていくさまは、レムの『砂漠の惑星』を思わせるが、読んでいて感じるのは、人間と機械の境い目がわからなくなる、という産業革命的な恐怖は、現代においてこれほどクリアに維持されているのだろうか? ということ。次に読んだ、小林泰三『脳髄工場』の表題作や、「綺麗な子」という短篇も同一テーマだったし、私がにぶいだけかも知れない。
 ところで、連作短篇のなかでは、なぜか高位の勲章を受けてしまいとまどう「雪かき部隊」の少尉を描いた「フェアリィ・冬」が秀逸。

(『戦闘妖精雪風<改>』 ハヤカワJA文庫)