21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

吉田修一『あの空の下で』

機内誌に連載、という条件下で、これだけのクオリティーの作品を納品できれば上出来、という気がしなくもないが、明らかに最近の吉田修一作品は印象が薄い。そもそも人物の印象が残っている作品って、「最後の息子」のシリーズと、『東京湾景』くらいではないかしら、と思ってきた矢先、面白い一篇があった。
エッセイの「オスロ」という作品なのだが、他に比べても圧倒的にしょぼい。オスロがヨーロッパでは一番好きな街というわりに、オスロでなんの事件も起こらないのはおろか、オスロの印象すら薄い。書かれているのは東京で執事喫茶メイド喫茶に行った、というエピソードなのだけれども、ここの感想も普通。
だが、このしょぼさが魅力を発している。そもそも「パーク・ライフ」の鮮烈なしょぼさ、小説として何もすごさを感じないのに、作品を続けて読みたくなる妙な存在感、がこの作家の魅力だった、と思いだした。要は、最近は小器用に書きすぎている、と言いたい。