21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

柳下毅一郎『殺人マニア宣言』 第三章「おかしな世界」

 「おかしな世界」とはアメリカのことである。「殺人」を趣味として楽しんでしまう柳下氏は、殺人に国民性を見る傾向があるらしい。第三章ではアメリカの「おバカ」が語られるが、犯罪を抑止するための犯罪博物館を作っているのに、犯罪マニアの心をくすぐらずにはいられない展示の徹底ぶりを見せる、ドイツ人の国民性にはより興奮するようである。殺人がワイドショー(トークショー)や、精神鑑定という茶番劇の「ネタ」になってしまうアメリカにも失笑するが、やはり先進国でありながら表舞台に立てない、国としての鬱屈が、人間の悪を結晶化させたドイツはより恐ろしい。そして、人間というものの存在を考える上で魅惑的である。柳下氏は、ウィリアム・ハイレンズが「これ以上殺す前に捕まえてくれ。自分で自分が抑えられない」と言うときの心理を考えることが、自分にとっての「殺人」の「楽しみ」であると言う。それは、ラスコーリニコフの「悪」を考えるときの気持ちに似ているかも知れない。
 ところでハイレンズはアメリカ人なのだが。