21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

2014年ベスト10

 みなさまお久しぶりです。最近、「この世でいちばん美味しい食べ物はサバの味噌煮だ」、と言いたくなる時期に、人生がさしかかってきている私ですが、みなさまはいかがお過ごしでしょうか? このブログは閉鎖したわけではありません。むしろ、なんでもいいから書きたい、という欲求が湧き出している今日この頃なのでありまして、この文章も、何度目かの再開決意表明として受け取っていただけましたら幸いです。
 不思議なことに、ブログを再開すると、その翌週あたりから、仕事がやたらと忙しくなり、それが二、三週間も続くと、すっかり心が折れてしまう、という不思議なジンクスがあります。そして多少、仕事が落ち着いても、どんな多忙な時期でも書き続けた作家たちの魂にひれ伏して、ひたすら本を流し読み続ける、というようなことを、ここ数年くり返してきましたが、今回ばかりはがんばろうと思います。
 そんなわけで、初回はイージーな企画ではありますが、昨年読んだ本のベスト10でも、順不同であげてみますので、がまんしておつきあいください。そういえば、読書メーターを見たら、年間のリストをまとめられる便利な機能がついていたので、すでにあげさせていただいた次第です。

海野弘『スパイの世界史』(文春文庫)
酒井啓子『<中東>の考え方』(講談社現代新書
河口俊彦大山康晴の晩節』(ちくま文庫
司馬遼太郎坂の上の雲』(文春文庫)
トレヴェニアン『シブミ』(ハヤカワ文庫NV、菊池光訳)
ブローディガン『ビッグ・サーの南軍将軍』(河出文庫藤本和子訳)
ジョセフィン・ティ『時の娘』(ハヤカワ・ミステリ文庫、小泉喜美子訳)
隆慶一郎吉原御免状』(新潮文庫
宇月原晴明安徳天皇漂海記』(中公文庫)
平山夢明『ダイナー』(ポプラ文庫)

我ながら、無節操に文庫本のエンターテイメント小説ばかり読んでいたことが明らかになるリストとなりました。
 思い起こせば昨年のテーマは「スパイ」だったので、最初のうちはスパイ関連本を読んでみていたのでした。むろん、ジョン・ル・カレのようなスパイ小説の名著も、たいへん面白かったのですが、どちらかというと面白かったのは実録ものでしょうか。リストにあげた『スパイの世界史』は、「俺はこんなに本を読んだぞ!」式の本ではありますが、スパイに関するエピソードを一覧する、という意味では便利な本です。また、ここにはあげませんでしたが、元スパイによる『スパイのためのハンドブック』や、マイケル・バー・ゾウハーの『モサド・ファイル』もヒットでした。
 小説では、厳密にはスパイものではなく、暗殺者を主人公にした冒険小説ですが、日本を舞台にした『シブミ』がおすすめです。日本に関する深い教養に基づいた、それでもかなりなバカ小説、という、いったいどうやったらこんなものが書けるのだろうか、という気持ちに打ち振るえるような本でした。まったくの私感ですが、スパイ関連ものは、ル・カレのような格調高いものより、うさんくさいものの方が、独特の臭みがあって美味しくいただけるように思います。
 もう一回思い起こせば、昨年一月の仕事はじめがドバイだったのです。そんなわけで、中東ものの新書もちょっと読みましたが、なかでも酒井啓子さんの『<中東>の考え方』は、かなり広範囲な内容をコンパクトにまとめた名著でした。詳しい内容は忘れましたが・・・
 河口俊彦大山康晴の晩節』は、一昨年以降の私的将棋ブームの流れで読んだものですが、「執着」のすごさを感じさせる作品です。心が折れて、「プチ悟り」を開きそうになる時に、もう一回開いてみたいと思います。また、いまさら読んだ『坂の上の雲』も、いまさらですが名著でした。『それから』を再読した時にも感じましたが、日露戦争って、やはり明治の「決算」で、同時代人の「決算」でもあったのだな、と感じます。
 年の後半に入ると、電子書籍を活用して、エンターテイメント小説読みまくりの期間に入るわけですが、なかでも「やられた」観があったのは、『安徳天皇漂海記』です。太宰治の『右大臣実朝』と、澁澤龍彦の『高丘親王航海記』をがっつり本歌取りし、好きなおかずを全部食べられたような思いでした。実朝のキャラクターからしゃべり方まで太宰そのまんまやん、と思いましたが、ここまで来ると、ある種、伊藤計劃円城塔の『屍者の帝国』にアレクセイ・カラマーゾフがでてきているようなもので、フィクションの登場人物がでてくるSFなのかも知れません。
 その他にあげた小説については、また別途書くかも知れません。ではみなさん。ご機嫌よろしゅう。