21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

村上龍『半島を出よ』 introduction1 2011年3月3日 見逃された兆候

ずっとずっとずっとずっとアメリカに尻尾を振り続け忠犬として尽くしてきたのに、餌をもらえないどころかバシバシ棒で打たれるような仕打ちを受けたと、多くの国民がそう感じたのだ。だから、嫌い、というだけじゃなくて、憎むようになった。同時に前々から嫌っていた中国に対しても、さらに大嫌いになった。貧乏になった日本は、周囲の国から嫌われるようになり、しだいに落ちぶれていった。日本が嫌っても、日本が怒っても、どうということはないと無視されるようになったのだった。(prologue1)

 相変わらず村上龍の小説の書き出しは、第一級のエンターテイメントである。ドルの暴落に続く円の暴落、消費税の引き上げから預金停止にいたり、経済が完全に破綻した日本はホームレスの国になっていた。停滞する国のなかで、独自の力を身につけるホームレスたち。そんな日本には反乱軍を装って福岡を制圧しようとする、北朝鮮のコマンドたちが迫っていた。どちらかというと興味があるのは、テロの多発によって警備が厳重になった霞ヶ関で交わされる会話を描いたこの章か。どうもホームレスの章と北朝鮮の章に大きな力が入っていて、先行きが不安なところに、確実に人物を描き分けたこの章の存在が希望を与える。