21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

佐藤彰一・池上俊一『世界の歴史10 西ヨーロッパ世界の形成』 5

 また学生時代の話で恐縮だが、文学部で、偏見なくいろんな小説を幅広く読んでいる人は、どちらかというと歴史専攻の人に多かった気がする。私を含め、そもそも文学を「研究」しようなどという、きわめて文学的でない行為に走っている人よりも、ずっと文学について語ることが楽しかった人たちだ。
 さて、本書の第5章は、「文人たちの肖像」と題され、フォルトゥナトゥス、アルクイン、ドーリヤックという三人の文人の生涯にスポットが当てられている。中世史、という本の性格もあってか、政治家や軍人でも、その伝記にこれだけの紙数を充てられてはいないので、きわめて目立つ章立てである。文学的ではない私としては、これらの人物についてまったく知ることがなかったが、敵対する国王たちをわたりあるいて、莫大な数の頌詩を遺したフォルトゥナトゥス、現代語での詩作をおこなったアルクイン、イスラームの知識に基づく天文や数学で、「魔術師」扱いまでされた教皇ドーリヤックの物語は、読んでいて非常に新鮮である。やはり、こういうとき、歴史家に負けた、と思うしかないのだ。

(『世界の歴史10 西ヨーロッパ世界の形成』 中公文庫)