21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

ミステリをたくさん読む(11月)

 我が家にも良いニュースがあって、初めての娘が生まれた。可愛くてしかたない訳で、世話をしていると本とか読めないかと思っていたが、案外、通勤時間とかでなんとかなるものだった。まあ、スキマ時間にできるのが読書ぐらいになった、とも言えるが。。。

 今月は8冊+再読が2冊。本格ミステリ読み始めたら結構ハマってしまった。

 ハードボイルドのプロットについて考えようと思い、『さらば愛しき女よ』を村上訳、清水訳で読み比べ。チャンドラーの村上春樹訳は問答無用で歓迎する派なのだが、清水訳を読み返してみるとこちらの方が簡潔でいい感じ。ただ、そもそもチャンドラーはウエットさが魅力だと思っているので、春樹訳のウエットさも魅力を失わない。

 さて、肝腎のプロットはといえば、これがまたウエットで良い。あからさまに謎のある女に、萌え要員まで投入し、最後はマーロウが一人でカジノ船に乗り込むというド王道の素晴らしさ。これをやって品位が落ちないのがチャンドラーの凄さだと思う。

 ハードボイルドつながりでは、若竹七海『静かな炎天』を再読したのだが、巻き込まれ感が命の作品集だけに、初読時ほどは楽しめなかった。

 さて、本格ミステリ系を5つ。どっちかというとリアリティ重視派なので、これまで好んでは読んでこなかったし、連続殺人で探偵役以外ほとんど死ぬようなものより、一人二人だけ死ぬものの方が綺麗にまとまっていると思っていたが、やっぱりたくさん殺すにはそれだけ作り手側の労力がかかるわけで、その意味で『屍人荘の殺人』『りら荘事件』は鮮やかだった。とくに前者は本当に丁寧かつ親切仕様な作りに感動。『獄門島』もトリックは美しいのですが、横溝正史の楽しみ方がまだよく分かっていないようで、前二者の方が好きだった。

 殺す数で言えば圧倒的だったのが『ドS刑事』で、後半若干苦しくなったものの、次から次へ殺されていくサスペンス感が圧倒的だった。変にキャラミスにしなければもっと好きだったのに、という感じ。一方、キャラミスとしての完成度は比べ物にならないほど高かったが、「殺人の数を減らして完成度上げてない?」という疑問を持ってしまったのが『クビキリサイクル』。ただ、同世代の人が二十歳の時に書いたデヴュー作と思うと十分すごいけど。

 中二病の時に好きだった『新宿鮫 絆回廊』。ストーリー自体はシリーズの中でもそれほどイケてるとは思わなかったが、思えば謎のある外国人と、鮫島の視点が交互に登場しながら、最後に交錯する、というプロットはヘニング・マンケルと大沢在昌の発明かも。いまだにこの語り口は好き。

 北欧ミステリでアイスランドの『緑衣の女』。雰囲気は抜群だし、ぐいぐい引き込む語り口だったのだが、当て馬の当て馬感がひどかったので。

 

レイモンド・チャンドラーさらば愛しき女よ/さよなら、愛しい人』(清水俊二/村上春樹訳、ハヤカワ文庫)★★★★★

今村昌弘『屍人荘の殺人』(創元推理文庫)★★★★★

鮎川哲也『りら荘事件』(講談社文庫)★★★★☆

横溝正史『獄門島』(角川文庫)★★★★

大沢在昌新宿鮫Ⅹ 絆回廊』★★★★

七尾与史『ドS刑事 風吹けば桶屋が儲かる殺人事件』★★★★

アーデュナル・インドリダソン『緑衣の女』★★★☆

西尾維新クビキリサイクル』★★★☆

 

(星5)不夜城』『さらば愛しき女よ『錆びた滑車』『OUT』マルタの鷹』『高い窓』『満願』『屍人荘の殺人』『静かな炎天』(星4.5)『カーテン』『春にして君を離れ』『涙香迷宮』『私が殺した少女』『リトル・シスター』『五匹の子豚』『ブラック・ダリア』『さらば長き眠り』『さよならの手口』『ブラウン神父の童心』『悪いうさぎ』『りら荘事件』『ノックス・マシン』『オーダーメイド殺人クラブ』(星4)『さむけ』『獄門島『戦場のコックたち』『ミレニアム1』『依頼人は死んだ』『神様ゲーム』『スタイルズ荘の怪事件』新宿鮫Ⅹ 絆回廊』『白い雌ライオン』『ビッグ・ノーウェア』『刑事マルティン・ペック 笑う警官』『アリス殺し』『天使のナイフ』『折れた竜骨』『バッド・カンパニー』『マネーロンダリング』『鍵のない夢を見る』『果てしなき渇き』『ボーン・コレクター』『生ける屍の死』『ドS刑事 風が吹けば桶屋が儲かる殺人事件』『檻』『古書店アゼリアの死体』『ビブリア古書店の事件手帖 栞子さんと奇妙な客人たち』(星3.5)『緑衣の女』『ローズガーデン』『Aではない君と』『愚か者死すべし』『11/22/63』『プレイバック』『教場2』『その可能性はすでに考えた』クビキリサイクルLAコンフィデンシャル』『首無しの如き祟るもの』『メーラーデーモンの戦慄』(星3)『秋季限定栗きんとん事件』『四日間の奇蹟』『人間の顔は食べづらい』『八月の降霊会』『暗幕のゲルニカ』(星2.5)『ミレニアム2』『真実の10メートル手前』『ヴィラ・マグノリアの殺人』(星1)『一千兆円の身代金』