21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

ミステリをたくさん読む(9月)

 キャッシュレス決済ポイント還元に乗せられて、PayPayとか使い始めた昨今。アプリ経由のサービスを利用して、ロシア語の本をトランクルームに入れてみました。計9箱。月間ひと箱250円は安いのですが、留学時代、まだ物価の安かったロシアで、「安いからたくさん買わなきゃ!」と思ったのがアダとなり、年間3万円の保管料を払うことになりました。

 さて、今月は4作品。諏訪部浩一『マルタの鷹講義』に影響されて、また好きな作品の評論とか書いてみたくなりました。

 

馳星周不夜城』(角川文庫)★★★★★

ダシール・ハメット『マルタの鷹』(小鷹信光訳、ハヤカワ文庫)★★★★★

ジェイムズ・エルロイ『ビッグ・ノーウェア』(二宮馨訳、文春文庫)★★★★

浅倉卓弥四日間の奇蹟』(宝島社文庫)★★★

 

 オールタイムベスト再読シリーズで、『不夜城』を読み返してみたが、やはりアイデンティティをテーマとした物語として最高峰だと思う。育ての親にあたる楊偉民に、「母国の言葉で話せ」と言って北京語の辞書を与えられ、必死に勉強する少年時代の健一。だが、実際に楊偉民は身内では台湾語を使っていた。いつか台湾語も教えてもらえると思っていたが、日台ハーフの子供を楊は完全には受け入れず、その日はいつまで立っても訪れない…このエピソードには何度読んでも震える。チャイナマフィアどうしの血で血を洗う抗争を、健一が悪知恵で乗り越えていく、という「赤い収穫」的なプロットなのだが、よく読めばコワモテの連中は紋切り型のキャラだし、健一の悪知恵はだいたい裏目に出る。それでも猛烈な勢いで読んでしまい、ヒロインとの悲恋に涙するのは、健一のアイデンティティの浮遊感が際立ち、楊偉民の悪役としての底知れなさが光るからだろう。

 ハメットについては、前述の『講義』を読みながら再読。フリットクラフト・パラブルのすごさに初読時は気づかなかった。二枚目でワルでハードでタフなサム・スペードが、物語の最後でどこかしょぼくれて見えるのがこの作品のすごいところだと思う。

 『ビッグ・ノーウェア』はもう少しゆっくり読めば良かった。プロットを深読みできればもっと楽しめたかもしれない。解説で法月綸太郎が言っているが、ル・カレなどのスパイ小説に通じるものがある。まあ、警察の内偵とはいえスパイの話なんだけど。

 『四日間の奇蹟』は描写が綺麗で、丁寧に語られた物語ではあったが、東野圭吾の某作品と仕掛けが一緒、と言われれば、元ネタに及ばないのは事実かも。。。

 今月から全体ランキングに差し込んでいく形にしてみた。

 

(星5)不夜城『錆びた滑車』『OUT』『マルタの鷹』『高い窓』『満願』『静かな炎天』(星4.5)『カーテン』『春にして君を離れ』『涙香迷宮』『私が殺した少女』『リトル・シスター』『五匹の子豚』『ブラック・ダリア』『さらば長き眠り』『さよならの手口』『ブラウン神父の童心』『ノックス・マシン』『オーダーメイド殺人クラブ』(星4)『さむけ』『戦場のコックたち』『ミレニアム1』『神様ゲーム』『スタイルズ荘の怪事件』『ビッグ・ノーウェア』『刑事マルティン・ペック 笑う警官』『アリス殺し』『天使のナイフ』『折れた竜骨』『バッド・カンパニー』『マネーロンダリング』『鍵のない夢を見る』『果てしなき渇き』『ボーン・コレクター』『生ける屍の死』『檻』『古書店アゼリアの死体』『ビブリア古書店の事件手帖 栞子さんと奇妙な客人たち』(星3.5)『ローズガーデン』『Aではない君と』『11/22/63』『プレイバック』『教場2』『その可能性はすでに考えた』『首無しの如き祟るもの』『メーラーデーモンの戦慄』(星3)『秋季限定栗きんとん事件』四日間の奇蹟『人間の顔は食べづらい』『八月の降霊会』『暗幕のゲルニカ』(星2.5)『ミレニアム2』『真実の10メートル手前』『ヴィラ・マグノリアの殺人』